普段、私たちは日常、家賃やガレージの振込等で銀行振込を利用しています。
この際に、全銀システムの利用料等、銀行側のコスト等を上乗せした振込手数料を支払っています。一方、欧米では新しいキャッシュレス決済サービスで、手数料の無料化が進行しており、国内では、2020年から振込手数料の仕組みとその額について、改善の声と値下げを求める声があがっています。
今回は、手数料の仕組みから国内外のキャッシュレス決済サービスの動向までをご紹介します。
振込手数料、いくら払っていますか?
グラフは都市銀行、地方銀行、信託銀行の振込委託(送金者から金融機関への振込申請)された年間件数の推移。年間で2018年は1億3千万件以上の振込委託がされ、1日350万件以上の振込委託が行われています。表に、主要銀行の振込手数料を示しています。1件あたり220円~440円ほどの振込手数料の場合、月に数百件の振込先がある企業は十数万円、年間では約数十万円もの振込手数料を支払っていることになります。
そもそも振込手数料とは?
上の図のようにA銀行からB銀行へ振込を申請した際には、A銀行は金額に応じた為替通知を行い、全銀ネットワークが一旦、振込金額を立て替える形となっています。実際には1日1回、各銀行が所有する日本銀行の口座で銀行間決済が行われています。全銀システム手数料と銀行や加盟店のコスト等を上乗せしたものが、振込手数料となります。この振込手数料は、後述しますが引き下げが公表されており、さらにキャッシュレス決済を推進するための規制緩和の議論が行われています。
海外で広まる振込手数料無料化
欧米では、英デジタル銀行の「レボリュート」や「モンゾ」などのスマートフォン決済サービス、キャッシュレス決済サービスの利用が、近年増加しています。これらのようなフィンテック企業(金融とITなどの技術を組み合わせたサービスを提供する企業)の台頭により、大手銀行もデジタル銀行への参入を始めました。このような流れが加速しているのは、
・無店舗であること
・グローバルな送金サービスの展開
・送金や海外でショッピング決済の手数料が無料
が挙げられます。レボリュートは、英国を代表とするフィンテックのスタートアップ(今までにないビジネスモデルを開発する)企業で、スマートフォン上で決済や外貨両替、暗号資産(仮想通貨)取引などの金融サービスを手掛けています。2015年よりサービスを開始し、現在では欧米を中心に約1500万人が利用しており、モンゾは2017年に、銀行ライセンスを取得しました。新規口座開設は既に300万を突破し、2024年には400万を突破すると見込まれています。
一方でロイヤル・バンク・オブ・スコットランド参加のナットウエスト銀行は、2019年の11月にデジタル銀行の「Bo」を開始した。これはモンゾと同様のフィンテックサービスを提供するものでした。米国においても2017年には、フィンテックサービスとして米国大手銀行のひとつ、バンク・オブ・アメリカが「Zelle(ゼル)」を開始し、わずか1年後には、利用者が2700万人を超え、今後も参入金融機関、企業も増加するとみられています。
日本のキャッシュレス決済サービスの動きは?
表は国内のスマートフォン決済サービスを提供している主要サービスをまとめました。
これらのサービスに共通する特徴は、
・同アプリ/サービスを利用している個人間同士の現金の授受
・国内での利用に限られている
・原則無料だが銀行口座への振込(出金)に手数料がかかる
ということです。
政府は、「デジタル化」の普及を急いでおり2022年には、所得税や贈与税をスマートフォン決済アプリで納付できるようにするとのことです。地方税は既に東京都などが導入しています。副業を行っている国民は1100万人を超えたこともあり、確定申告する個人事業主や副収入のある会社員の利用が期待されています。また給与のデジタル払いを推進するために、規制緩和の議論がされていますが、フィンテック企業の資金の安定性やセキュリティについて労働組合からは反発の声もあがっています。
そもそも労働基準法では、「賃金は通貨で、直接労働者に全額を支払わなければならない」と規定されています。しかし、給与のデジタル支払いは企業側だけでなく、労働者にも給与の分割支給などの自由度あがるなどのメリットがあります。労働組合の反発を受けて政府は、「資金移動業者」に一定の資金保全システムの安全性を満たすように、省令改正を検討しています。また、全国銀行協会(全銀)は送金インフラをフィンテック企業に開放すると正式に発表し、2022年度中に、フィンテック企業が銀行と同条件で直接インフラに参入できる仕組みを調整しています。20年から公正取引委員会で、全銀システムの閉鎖性により手数料が高止まりしているという報告書が発表され、政治側からも手数料値下げを求めています。
ただ、フィンテック企業が全銀システムに参加するためには、日銀の当座預金を開設しならないというハードルが存在します。給与振込という絶対の安全性が求められる決済の不履行を防ぐために、安定した財務基盤やリスク管理体制が求められます。しかし、これらのハードルを越えたフィンテック企業にとっては、銀行に支払ってきた振込手数料がなくなりコスト削減が可能になり、銀行を含む金融サービス業者は、手数料の削減分を利用者に還元することも考えられます。
5月から始まる給与のデジタル払い
KDDIグループのauペイメントは、「auPAY(ペイ)」で給与の前払いが受けられるサービスを始めます。企業が労働者向けの福利厚生の一環としての需要を想定していて、労働者は、電子マネーにチャージする形で給料の一部を受け取ることができます。その金額は、既に働いた時点での範囲で、申請までの勤務状況によって決めますが、これはあくまで労働者との合意があった場合のみで運用されます。同様に伊藤忠商事グループ、楽天グループも給与を口座に振り込む形でサービスを提供しています。
企業間(BtoB)のキャッシュレス決済の可能性
ここまで述べたように企業-個人(BtoC)または個人同士(CtoC)のキャッシュレス決済は急速に普及しています。この流れは企業間(BtoB)決済にも波及が期待されています。その想定されるメリットとは
・現金管理コストの軽減
・取引内容の見える化による業務の効率化
・資金回収のサイクルが柔軟に
・代金未回収のリスク軽減
・決済の透明化
であり、銀行を介さないキャッシュレス決済によって、タイムラグのない送金により、経理や会計に時間を費やすことが少なくなり、経費の削減に繋がることが想定されます。また、振込手数料が低減されることにより、請求/送金タイミングの頻度を増やすことができるようになります。最後に、送金のタイムラグがなくなることにより決済の透明性が常時確保できると考えます。
キャッシュレス決済によって手数料も削減
手数料の仕組みから近年のキャッシュレス決済について国内外の動向をご紹介しました。今後もキャッシュレス決済を伴う事業のセキュリティ問題、リスク管理など課題が議論されていくと思いますが、BtoC、CtoCのキャッシュレス決済は、確実に国内で浸透していく状況であるのは事実です。また企業間の決済サービスにも多くのメリットがあるため、今後、サービス展開されるのではないかと思われます。
皆さんも今一度、振込手数料をいくら支払っているのか、計算してみるのはいかがでしょうか?現状認識をする上で、よりキャッシュレス決済が身近になる良い機会になるかもしれません。