昨今、DX(デジタルによる業務改革)が推奨されるようになり、デジタルに強い人材の需要が高まっています。
2022年8月、「旭化成、デジタル人材を10倍2500人に 学び直しで育成」というニュースが発表されました。
このニュースによると、旭化成は2024年までにデジタル人材を2,500人確保するとのことです。
このニュースを見ると、自社でもデジタル人材の確保を急がなければとお思いになるでしょうが、多くの中小企業ではデジタル人材の確保を急ぐ必要はないでしょう。なぜなら多くの中小企業が急いで確保するべき人材は、デジタル人材ではなくIT人材だからです。
IT人材というと、その意味をデジタル人材と混同している方がいらっしゃいますが、IT人材とデジタル人材は全く別物です。
今回は、デジタル人材とIT人材の違いを正しく理解し、自社での人材採用に活かしていただくために、両人材の違いや、必要なスキルの違いをご紹介していきます。
デジタル人材とIT人材の定義は?
デジタル人材とIT人材の違いを知るために、まずはそれぞれの言葉の定義を確認していきましょう。
デジタル人材とは?
デジタル人材とは、 デジタルによる変革(DX)を推進し、自社や顧客に対して
新たな価値を提供できる人材のことです。
「AI・クラウド・ビッグデータ」など、最新のデジタル技術に関する知見、技術力、プロジェクトを牽引していくためのビジネススキルが求められます。
つまり、デジタル人材は、単に最新のデジタル技術のスキルを持っているだけの人ではなく、最新のデジタル技術のスキルを用いて企業を成長へと導ける、ビジネススキルを兼ね備えた人材のことなのです。
IT人材とは?
IT人材は経済産業省によって、言葉の意味を定義されています。経済産業省によるIT人材の定義は、
1)IT サービスやソフトウェア等を提供している事業に従事する人材
2)IT サービスを活用している企業で、IT サービスを利用している人材
3)IT サービスを利用する一般ユーザー
としています。
例えば、会計ソフトを例にあげると、会計ソフト事業に従事する人であったり、会計ソフトサービスを利用している人もIT人材と言えます。また、YouTubeの閲覧やTwitter、Instagramの利用者もIT人材と言えます。
Z世代は、物心着いた時からスマートフォンに慣れ親しみ、SNSを利用してきました。IT人材の定義によると、この世代そのものが、IT人材となるわけです。
IT人材の定義は幅広いですが、まとめると、ITサービスにおける情報を適切に理解、解釈して活用することができる人材と言えるでしょう。
デジタル人材とIT人材の定義の違いとは?
デジタル人材が、最新のデジタル技術のスキルを用いて企業を成長へと導ける、ビジネススキルを兼ね備えた人材であるのに対して、IT人材は、ITサービスにおける情報を適切に理解、解釈して活用することができる人材のことを言います。
言い換えると、デジタル人材は、経営寄りの人材であるのに対して、IT人材は現場寄りの人材であると言えます。
デジタル人材とIT人材に必要なスキルは?
デジタル人材とIT人材は、言葉の定義だけでなく、スキルにも違いがあります。それぞれに必要なスキルを確認していきましょう。
デジタル人材に必要なスキルは?
デジタル人材に必要なスキルは大きく2つに分けられます。
1)技術系スキル
2)ビジネス系スキル
です。
また、技術系スキルとビジネス系スキルは、表1のようにカテゴライズすることができます。
デジタル人材は、技術系スキル、ビジネス系スキルのどちらもある人材です。とはいえ、デジタル人材を1人確保して、技術系スキル、ビジネス系スキルの両方を用いて全ての業務を担当させることは難しいでしょう。
デジタル人材は、技術系スキル、ビジネス系スキルの両方を持っている上で、役割分担させることが望ましいです。
IT人材に必要なスキルは?
IT人材の定義は幅広いため、企業が何を求めるかによってIT人材の求められるスキルも変わってくることでしょう。そのため、ご紹介する全てのスキルが備わっている必要はありません。ここでは、幅広くIT人材に必要なスキルをご紹介します。
クラウド、SNS、動画などのITサービスを利用し活用するスキル
具体的なスキルの一例
☑︎会計ソフト(freee、マネーフォワードなど)やファイル共有管理サービス(Googleドライブなど)のクラウドサービスを利用する
☑︎Twitter、Instagram、FacebookなどのSNSを利用する
☑︎YouTubeなどの動画サービスを利用する
IT人材は、扱えるITサービスがそれぞれ異なることはあっても、ITサービスにおける情報を適切に理解、解釈して活用することはどのIT人材においても必要なスキルです。
例えば経理業務を効率化させるITサービスを導入したとします。IT人材は、そのサービスを適切に理解、解釈して経理業務を効率化させる必要があります。
また、昨今では、自社でSNSを運用する企業が増えてきました。自社SNSを運用するスキルなどもIT人材には求められます。
ドキュメントを作成するスキル
具体的なスキルの一例
☑︎Word、PowerPoint、Excelなどを利用し、ドキュメントを作成するスキル
☑︎Googleドキュメントやスプレッドシートなどを利用し、ドキュメントを作成するスキル
☑︎ドキュメントをPDF化させることができるスキル
アプリケーションシステムや、企業が提供するITサービスのシステムを開発する際には、要件定義書を作成したり、詳細設計書や総合テスト仕様書を作成することもあります。その際にドキュメントを作成し、さらにそのドキュメントをPDF化させ、資料として利用することができるスキルが求められます。
プログラミングスキル
具体的なスキルの一例
☑︎Webサイト構築やスマホアプリ構築において基本的なプログラム構造が理解できる
☑︎HTML、CSSの言語が理解できる
☑︎Java、Swiftの言語が理解できる
プログラムを書き上げることだけではなく、プログラミング言語の知識や、プログラム構造についての理解も含まれます。レベル感によって技術スキルに差は出てきますが、最低限、業務システムやスマホアプリのプログラムの知識は持っているとプロジェクトにIT人材として投入した際に、滞りなく仕事が進められるでしょう。
デジタル人材とIT人材に必要なスキルの違いとは?
人材 | 人材の定義 | 具体的なスキル |
デジタル人材 | 最新のデジタル技術のスキルを用いて企業を成長へと導ける、ビジネススキルを兼ね備えた人材 | ・データサイエンス・組織・プロジェクト管理・ビジネス・サービス設計 |
IT人材 | ITサービスにおける情報を適切に理解、解釈して活用することができる人材 | ・クラウド,SNS,動画などのITサービスを利用し活用する・ドキュメント作成・プログラミング |
デジタル人材はIT人材であるとも言えます。ですが、IT人材はデジタル人材であるとは言えません。デジタル人材は、IT人材に必要なスキルをすでに取得しており、IT人材よりもデジタルに強く、専門性の高い人材です。デジタル人材になるためには、必ずIT人材になる必要があり、IT人材はデジタル人材になるための登竜門とも言えるでしょう。
なぜ、ほとんどの中小企業では、デジタル人材ではなくIT人材が必要なのか
巷ではよくDX、DXといいますし、ほとんどの企業でDXすることが必要かのような広告をよく目にしますが、本当にほとんどの企業でDXは必要なのでしょうか?
DXは、デジタル技術を用いて企業の提供する製品やサービス、ビジネスモデルそのものを変革させます。ですが、ほとんどの中小企業ではサービスそのものを変革させようとは思われていないでしょう。
自社のサービスを変革させるのではなく、自社の業務プロセスをIT技術を利用して効率化させることを望んでいる企業がほとんどなのではないでしょうか?または、自社のサービスを変革したいとお思いの企業も、まずはIT技術を利用して業務プロセスを効率化させることが先ではないでしょうか?
となると、デジタル人材の採用ではなく、IT人材の採用が必要になります。
IT人材を利用して、
☑︎これまで紙でやりとりしていた資料を、デジタル化させ、クラウドソフトを利用して誰もが資料にアクセスすることができるようにする
☑︎ホームページだけでなく、SNSを利用して自社をアピールする。
☑︎出勤退勤のタイムカードをITサービスを利用してデジタル化させる
☑︎経理業務をクラウド会計ソフトを利用し、社外で作業ができるようにする
必要があります。DXという言葉に惑わさせることなく、今自社が置かれている現状を把握し、そのうえで自社に必要な人材を見極め、採用することが大切です。
自社に必要な人材を見極めよう!
ほとんどの中小企業ではデジタル人材の採用を必要としません。自社の業務プロセスを効率化させるIT人材が必要であることはご理解いただけたかと思います。
IT人材の定義は幅広いため、自社に必要なIT人材を見極める必要があります。まずは自社の現状を知ることから始めましょう。現在どのような業務プロセスが存在するか、どの業務において滞りが発生しているか、その業務が効率化できるかの観点から、ITを用いた業務効率化の優先順位や課題点を洗い出しましょう。そうした段階を踏むと、自ずとどのようなIT人材が必要かが見えてくると思います。今回ご紹介したIT人材に必要なスキルなどをご参考にしていただき、今回の記事が自社の採用のお役に立てますと幸いです。